店主たみこの観光案内ブログ

七稲地蔵 永遠を手に入れた7人の悲しい物語

2020年06月13日

七稲地蔵のお堂

 

金沢観光の大目玉であるひがし茶屋街をもうちょっと奥まで入った所に、こじんまりとしたお堂があります。
中にはお地蔵さまがずらり。
七稲地蔵です。
「七」と「稲」には意味がありまして、そこにはこんな悲しい歴史があります。

 

七稲地蔵の案内板

 

時は1858年、時代は江戸時代、この地を大飢饉が襲いました。
それにより米価が高騰、下層の農民・町民は日々の食事にさえ事欠く事態となりました。
行き場をなくした彼らはついに蜂起を決意、禁足地である卯辰山(うたつやま)に登りお城に向かって「ひもじいわいや~~!米くれまいや~~!!」と泣き叫んだそうです。
世に言う「安政の泣き一揆」です。

 

卯辰山の日暮ヶ丘


ちなみにここが事件の舞台になったと言われている卯辰山中腹にある日暮ヶ丘です。

飢えに苦しんだ人々は、ここからお城に向かって大声で叫んで自分たちの窮状を訴えたのです。

 

結果としてこの一揆は藩を動かし、御蔵米500表が放出され、米価も藩令によって安く売り出されることになりました。

 

で、終わればハッピーエンドなのですが、そうはいきません。
一揆の首謀者とされた7人が藩によって捕らえられ、2人が獄死、5人が処刑されました。
その悲劇の7人を弔い、祀られたのがこの七稲地蔵なのです。

 

7人の名前が刻まれた石碑

 

地蔵堂の横にはこの時亡くなった7人の名前が刻まれた石碑が建立されています。
右から順に

 

・河原市屋文右衛門
・高橋屋弥左衛門
・越中屋宇兵衛
・能美屋佐吉
・原屋甚吉
・平田屋彌兵衛
・北市屋市右衛門

 

と刻まれています。

 

どの名前にも「~屋」と付いているのは名字がなかったからで、これらは「屋号」と呼ばれます。
屋号とは家を区別するために用いられる名前で、感覚的には名字に近いですが、名字と違って他の家とダブることはありません。
なので「~村の~屋さんの誰々」と言えば、必ずどこの誰だか特定できるのです。

 

七稲地蔵の様子

 

堂内を覗くと7体のお地蔵さま。
ちょっと関係ないお地蔵さんも混ざってるので7体以上ありますが、メインはちゃんと7体です。

 

どれも赤い頭巾に前掛け。
スタンダードなお地蔵さんコスチューム(←?)をバッチリ身に着けています。

 

保存状態もいいですね。
基本お地蔵さんというのは路頭にさらされてるケースが多く、石が欠けてボロボロになってるのをよく見かけますが、こちらのお地蔵さまはどれも良好。
やっぱ屋根の下にいると違いますね。

 

で、ちょっとそのお地蔵さまの足元を見て欲しいのですわ。

 

足元に刻まれた名前

 

「俗名 高橋屋弥左エ門」と刻まれています。
先ほど見た7人の内の1人の名前ですね。
他のお地蔵さまの足元にも、それぞれすべてに名前が刻まれています。
要はこのお地蔵さま、一体一体誰に対して作られたものなのかが明示されているのです。

 

なんかね、複雑ですな。
非業の死を遂げたとは言え、こうして後世に連綿と語り継がれ、名誉の名前入りお地蔵さままで作って祀ってもらえるなんて。
ある意味彼らは死して「永遠」を獲得した訳です。
そう思えば少しは浮かばれますかね?

 

七稲地蔵のお堂を覗く

 

江戸時代の悲しい事件の記憶を今に伝える七稲地蔵。
どうか前を通った際には、静かに手を合わせてお参りください。

 

なお毎年8月26日には祭礼が営まれます。
この日だけはお堂の扉が解放されるので、中のお地蔵さまを直に拝顔できます。
お地蔵さまをもっと間近で見たい!って人は、この日に合わせて行ってみてください。
お地蔵さまの生の温度感をよりリアルに感じられますよ。

 

 

七稲地蔵

住所:石川県金沢市東山 1-31-6

 




エリア >> 石川県 > 金沢市 > 東山

 

関連タグ >> 卯辰山寺院群 

 


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