旧ウィン館
2019年12月28日
兼六園へと向かう石引通りに1軒の洋館が建っています。
通り沿いから建物は直接見えないのですが、北陸学院を目印に探してみてください。
木造のカッチョイイ門と「ウィン館」の看板が見つかります。
目指すウィン館はその先にあります。
「ウィン」とは人の名前で、フルネームはトーマス・クレイ・ウィン(Thomas Clay Winn)。
アメリカ出身の宣教師で、明治10年に来日、その2年後に金沢へと訪れました。
表向きは石川県中学師範学校の講師でしたが、その傍らキリスト教の布教活動にも熱心で、教会組織の立ち上げや教会建設などに携わりました。
現在の若草町にある若草教会を建てたのも彼です。
そして明治24年、自宅兼布教活動の場として建てたのがこのウィン館です。
様式はアメリカ植民地時代を彷彿させるコロニアン・スタイル。
カウボーイやガンマンが登場する西部劇なんかでよく見かける建築様式です。
設計はウィン自身。
恐らく故国であるアメリカを想い、慕情を込めてデザインしたのでしょう。
1階の正面には手すりのついたバルコニー。
建物は石の基段上に乗っかっており、まずは階段で一段上のバルコニーに上がり、そこから家に入る構造になっています。
アメリカでは一般的だったかもしれませんが、入口から建物内までフラットなのが普通の日本の住宅感覚から見て、当時このエントランスは相当斬新に映ったことでしょう。
その上にはベランダ。
現在はガラスがはめ込まれていますが、昔の写真を見るとかつては柱だけの吹きさらしだったようです。
これもかなり衝撃的だったでしょうね。
神社・仏閣建築にもベランダによく似た高欄という構造はありますが、ほぼ一階だけですからね。
建物の二階に外に張り出したスペースがある、それも民家にと言うのは、まず間違いなく当時金沢ではここだけだったでしょう。
さらに柱の意匠も見事。
上部に柱頭を備え美しく装飾を施すことでデザイン性を高めると同時に、上の梁を受け止める面積を増やし強度も補強しています。
美観と機能を一度に実現した、素晴らしい設計。
柱本体もよく見ると中央に1本溝を通してあり、これによりシャープでキレのある美しいフォルムを実現しています。
イカしてますね!
建物左側面に回り込むと、今度はベイ・ウインドウ。
ベイとは湾(= bay)で、湾港のように台形の形をした出窓の事です。
これもコロニアン・スタイルの典型的な特徴。
そのままだと1枚の退屈な平面になってしまう壁面に変化を付け、意匠性をぐっと高めています。
中に入ると左が展示室になっています。
展示室にはその時々の企画展が開催されており、ウィン館の成り立ちやかつての布教の様子などを知ることができます。
特に当時の調度品や教会で実際に使われたであろうオルガンなどの楽器類は時代感むんむん。
い~い具合に古びれてて、レトロな風合いがたまりません!
1点1点じっくりと鑑賞してみてください。
手すり付きの階段も味があります。
べったりと塗られたペンキの風合いが安っぽいんだけど、でも味があって。
装飾はシンプルで素っ気なくて、なのにシブみがあって。
踊り場にぽつんと据えられた上げ下げ窓がまたいいのですわ。
細い格子をはめ込んだだけの、ちょっとガタついて使いにくそうな(←笑)木製枠。
窓から入り込む光が真っ白な壁に映し出す陰影は、どこか柔らかく懐かしく、ふん~わり落ち着いた雰囲気。
二階はシンプルに部屋を見せるだけ。
かつての調度品や学校で使用していたミシンなどがちょろっと展示されています。
ここよーく見ると天井に不自然な仕切りがあるのですが、これはかつてこの部屋がふたつの別部屋だった痕跡と思われます。
この建物、実は数度の改修が行われており、そのどこかのタイミングで恐らく壁を撤去し、ふたつの部屋をひとつに繋げたのでしょう。
理由は分かりませんが、会議室にでもしたかったんですかね?
様々な「味」が詰まったウィン館。
ウィンのたどった足跡を辿るのもいいですが、やっぱりこの館の最大の魅力は館自身でしょう。
そのすぐれた建築美を思う存分お楽しみください。
なおこの館、様式は西洋式でも実際に建てたのは日本の大工さん。
それゆえにさり気な~く和風建築のクセがあちこちに散見されます。
どこでしょうかね?
ぜひそんな「アラ」(←?)も探して遊んでみてください!
関連タグ >> 古民家 古建築
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