いしかわ生活工芸ミュージアム 建築編 「金沢」をテーマに設計された谷口建築を見る
2022年03月07日
石川県立伝統産業工芸館から改称して、現在はいしかわ生活工芸ミュージアムと呼ばれるこの施設。
以前に建物の由来や大まかな概要を紹介しました。
今回改めて、もっと突っ込んだレポートをします。
まずは前編、建築編。
この建物、金沢の誇る建築家、谷口吉郎(たにぐち よしろう)の設計によるものです。
谷口吉郎と言えば東宮御所やホテルオークラ東京本館メインロビーなど、数々の有名な建築設計を手掛けています。
そんな谷口作品のひとつがこちら。
竣工は昭和34年。
見ての通りガッチガチのRC(鉄筋コンクリート)の箱型建築で、今の感覚から見ると少々野暮ったい印象。
でも当時はこのスタイルがスタンダードだったんですね。
ただ谷口さんはここに「金沢」というエッセンスを詰め込もうとしました。
その表現のひとつがこの正面入り口横にある装飾。
コレね、格子のイメージなんですよ。
金沢の建築文化の代表的なもののひとつに、ひがし茶屋街の建築群が挙げられます。
そのひがし茶屋街の建築を印象付けているもののひとつが、通り沿いに並ぶ木格子なのです。
それをこの建物正面の一番目立つ場所に持ってきたんですね。
窓にも格子。
もちろん意図は正面口のものと同じです。
素材は鉄。
なのでね重いんですよ、見た目が。
今なら絶対アルミを使うところですけどね。
ただまあそれが昭和という時代感を残しているというか。
なんとなーくレトロな空気を作っています。
そして建物の2階、ちょっと出っ張ってるのが分かりますでしょうか?
これも金沢という土地を表しています。
防雪対策なんですね。
雪がなるべく壁にモロに当たらないよう、こうして出っ張らせて庇の役割を持たせているのです。
実際ね、結構雪害って深刻なんですよ。
壁なんか平気で割れてくるしね。
ひどいと瓦が割れたりなんかもするし。
雪国ってのは色々と面倒なのですわ。
エントランスにはびしっと天然石のタイル。
この石は戸室石と呼ばれる、金沢の山間で採れる安山岩です。
これももちろん金沢という土地の表現ですね。
戸室石には赤と青があって、これは見ての通り赤戸室石。
ザラリとした手触りの落ち着いた風合いに磨かれています。
その表面をちょっと拡大。
粒々がいっぱい散らされてますよね。
これが安山岩の特徴。
もうちょっと専門的な呼び方をすると「角閃石安山岩(かくせんせきあんざんがん)」と言います。
角閃石ってのはベースになってる赤っぽい部分です。
白い粒々は長石や石英、黒いのは黒雲母や結晶化した角閃石ですね。
ちなみにこの戸室石、このすぐ近くの金沢城の石垣にも使われています。
時間があったらそっちの石も見てみてください。
こちらは中庭のプール。
どう?何か気付きません?
プールの中と外、石材の色が違いますよね?
先に述べた通り、戸室石には赤と青があって、その2色をプールの中と外とで使い分けているのです。
プールの底に青戸室石を並べることで、水のブルーがひと際引き立っています。
そしてもうひとつ注目なのが不規則な石タイルの形。
わたしこれ、金沢城の色紙短冊積石垣(しきしたんざくづみいしがき)をモチーフにしていると思うのですが、どうでしょう?
これがその色紙短冊積石垣ね。
どうです?似てません?
さらにこの色紙短冊積石垣、元々は滝をイメージしてデザインされています。
そしてここではプール。
同じ水繋がり。
どー考えても無関係とは思えない。
その辺、どんな意図があったのかは設計者である谷口さん本人に聞くしかありません。
もう死んでるけど。(←!)
そこから見える外壁の様子。
この辺りは金沢町家のスケールを軸に設計されています。
確かになんとなーく町家の並びっぽくはありますね。
やや深めに張り出した庇の感じや柱間のスペーシング、そしてズラズラと並ぶ木格子。
ただ素材が鉄筋なんでちょーっとイメージ湧き辛いけど。
「金沢」というエッセンスが巧みに隠し味となっている、いしかわ生活工芸ミュージアム。
RC建築全盛期の頃の建物なのでやや無機質な感はありますが、そこは谷口吉郎。
所々に”谷口らしさ”が散りばめられています。
そんな細部に込められた狙いをひとつずつ探って行くと、また違った面白さが見えてきて楽しいですよ。
次回は中の展示について見ていきます。
ここは石川県の工芸がざっくりと俯瞰できる唯一の場所。
充実感満点です!
関連タグ >> 美術館・博物館 近代建築 いしかわ生活工芸ミュージアム
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