
加賀藩十村役 喜多家 室内編1◆武士、ナンボのもんよ!?
2021年10月18日

前回は喜多家の門から母屋の入口までを見てきました。
今回はいよいよ屋敷内部へと潜入します。
まず最初に目にするのが「溜りの間」と呼ばれる部屋。
畳数で約17畳半、結構な広さです。
ここ何の部屋かと言うと、会議室です。
ここで村の寄り合いを開き、様々な決め事をしていたのです。
だから「溜り」なんですね。

ではここで屋敷の見取り図を確認します。
全体の間取りはざっとこんな感じ。
ピンクのゾーンが武士用スペースで、黄色のゾーンが平民用のスペースです。
基本この間を両者が行き来することはありません。
それが江戸時代のザ・身分格差社会のルールなのです。
その痕跡はこんな所に見られます。

分かります?床面の高さが違うの?
向こうが武士スペース、手前が平民スペース。
武士スペースの方が一段高くなっています。
カーストですねー、ガッチガチのカースト制度。
お前ら平民と我々武士が同じ床面を歩けるか!っていうくだらないプライドがこの床の高さに表されているのです。
いやー面倒臭い(笑)。

その先にある武士スペースがこちら。
「広間」と呼ばれる部屋で、約21畳あります。
ここで武士の役人たちは執務を行っていたそうです。
ただいつもかも役人が詰めていたのかと言うとそうでもなく、たまにチョコチョコ来ていた程度だったようです。
じゃあこんな立派なスペースいらんだろうと思うのですが、そこは威張りくさった武士。
無駄に部屋を広く取って、優越感に浸ってたんでしょうね。

その部屋の庭側に「調詩所」と呼ばれるスペースがあります。
ここ何かと言うと、聞き取りを行う場所です。
この前が桟敷になっていて、そこに村の者を呼び出し、アレやコレやと直接やり取りをするのです。
話の内容は主にその年の米の収穫状況の事。
豊作だったとか不作だったとか、そこからどのくらい年貢を納められるのかとか。
そんな現場からの生の声をここで吸い上げていたのです。

そのための工夫がこちらの格子。
画像じゃ分かりませんが、三角形になっています。
外側が頂点、室内側が底辺。
こうする事によって外から中は見えにくく、中から外は良く見えるようになります。
人って面と向かうと本音が言いづらくなりますよね?
だから外から中を見えなくすることで相手の顔を隠し、遠慮なくモノを言えるようにしてあるのです。
役人側もそれなりに気を使ってたんですね。

その隣が「武台の間」。
ここは前回記事で見た、殿さま専用の入口に繋がる部屋です。
見て欲しいのが畳の敷き方。
独特でしょ?
部屋中央に縦方向にすぱっと通してあります。
この畳、殿様の通路なんです。
専用玄関から入ってきた殿さまは、この縦敷きの畳ロードをのしのし通って奥へと進むのです。

その先にあるのがこちらの「謁見の間」。
その名の通り、殿さまが客や部下と謁見するための部屋です。
あれ?と思いません?
そう、ここだけ壁の色が変わっています。
突然の弁柄色。
これも殿さまの権威の象徴なんですね。
壁を紅く染める事で、ここにいる殿さま、エライんだぞ~って事を表現していたのです。

その隣の隣にあるのがこちらの「御座の間」。
ここは殿さまのプライベートルームです。
要は寝室。
喜多家滞在時は、基本ここで過ごしていたそうです。
この部屋ね、面白い仕掛けがあるんですよ。
それは床の間の壁。
この壁の向こう、どうなってると思います?

こんな感じ。
「武者かくし」と呼ばれる3畳の部屋になっています。
そしてこの武者かくしと御座の間、なんとどんでん返しで繋がっていました。
どんでん返しってのは忍者屋敷なんかでよく見る、くるっと回る壁ね。
あのどんでん返しが床の間の壁に仕掛けられていたのです。
目的はもちろん殿さまのガード。
いざという時にすぐに隣の部屋に飛び込めるよう、緊急用の出入り口を確保してあったんですね。

ただこのどんでん返し、現在は残念ながら壁に埋め込まれてなくなっています。
画像左側の枠部分が本来その場所なのですが、ご覧の通りがっちりクローズ。
叩いても蹴ってもくるんと回転してくれません。
コレ、なんで埋めちゃったんですかね?
クルっとやりたかったなー、どんでん返し。
今からでももう1回作り直してくれんかな?

こちらは御座の間から見える庭の眺め。
前回記事で見た通り、この屋敷はくぼ地に建てられているので地面が上に向けて傾斜しています。
なので圧迫感が強く、奥行きがイマイチ。
樹木が鬱蒼と生い茂っているのは、景観のためというより恐らく実用上の都合でしょうね。
ひとつは屋敷を目立たなくするための目隠しとして。
そしてもうひとつは防風林として機能させるため。
正直あんまり見て楽しめる庭って感じじゃないですね。

以上、喜多家の武士&殿さま用スペースを見てきました。
江戸時代の格式ばった習慣をリアルに実感できる、タイムトリップハウス。
当時の堅苦しい空気みたいなものを想像しながらご見学ください。
次回は今回見てない、平民用のスペースを見て行きます。
こちらは本当の生活空間。
所々にかつての生活の痕跡が残ってて面白いですよ~。
関連タグ >> 古民家 古建築 加賀藩十村役 喜多家
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