
一本杉通り ザ・レトロな建築散歩が楽しいクラシックロード
2021年09月25日

七尾の商店街の中にある一本杉通り。
長さ約500メートルほどの、古くからあるショッピングストリートです。
かつては大いに賑わった通りなのですが、今はまあアレね、アレ。
全然人おらん(笑)。
でもね、い~んですよ、ここが。
しっかり吟味しながら歩くと、建築マニアの心くすぐる建物が所々にあって。
思わずハートズキュン!
では早速見て行きましょう。

まずは一発目、高澤勇吉商店。
カッコエー!!
いきなりカッコエーー!!
何なのよ、このザ・ブラックなマスク?
黒瓦に黒壁、そして褐色化した大看板。
スタイリッシュさゼロ、暑苦しくて汗がダラダラ出てきそうなほど重たい外観に、もー喜びの涙が止まらない!(嬉)。

看板は銅看板ですね。
1階庇部分の屋根も銅板葺き。
これがい~い具合に酸化して、味のあるシブ~い深緑色に。
この色はね、時間をかけなきゃ出せないんですよ。
何十年もの間雨と風にさらして、ようやく出てくる古老の色。
まさしく生きた文化財!

二発目、高澤ろうそく店。
こことね、後から紹介する鳥居醤油店が一本杉通りの二大メジャーです。
テレビで一本杉通りが紹介される時、この2軒はほぼ間違いなく登場します。
「和ろうそく」という商材もキャッチーなのですが、お店のおかみさんの人となりがいいんですよ。
まあ今回は建築がテーマなのでその辺は深く掘り下げませんが。

先に見た高澤勇吉商店同様、この建物もザ・ブラック。
コッテコテに黒で固められています。
これね、火事対策らしいのですわ。
明治38年にこの辺り一帯で大火があり、その反省からこのような防火性能の高い土蔵建築が盛んに建てられたのだそうです。
その後のスクラップ&ビルドでそんな土蔵造りの家も徐々に姿を消してきていますが、今もこうしてわずかながらに残されているのです。

三発目、宮下商店。
木造・白壁・格子窓、ガッチガチの町家建築。
木造の格子がイカシてますわね。
今ならアルミサッシをはめ込んで簡単~に済ましちゃうところですが、ここに木の枠を入れるのですよ。
この木という素材が生む質感・温もり。
日本建築が持つ清貧の美しさです。

軒先にはなんかの機械が置いてあります。
なんでもこちらのお宅、ポンプ屋さんなんだそうで。
これもポンプなんですかね?
わたし機械の事はよー分からんのですが。
素材は鋳鉄(ちゅうてつ)ですね。
ごっちり重くて粘りのない鉄。
マンホールの蓋なんかにも使われているヤツです。

四発目、しら井。
海産物屋さんです。
こちらも土蔵ですね。
一見三階建てに見えますが多分二階建て、二階の屋根の上にもう一段ある屋根は恐らく煙出しでしょう。
つまりこの真下が囲炉裏になっていて、出てきた煙をこの上の窓から逃がすのです。
今はもう囲炉裏はないだろうけど。

店の前には船のイカリ。
これ、飾り用のオブジェじゃなくて本物です。
昭和13年に運送会社の船が偶然海中から引き上げたもので、北前船に使われていたものと考えられています。
すごいね。
鉄なんて塩水に漬けておいたらすぐに錆びてボロボロになるイメージがあるけど、こうして海底で何十年、ひょっとしたら100年くらい沈んでてもちゃんと形が残ってるんですね。
いやー立派だ。
これも鋳鉄ですね。
・・・素材の話はもういい??(笑)

五発目、鳥居醤油店。
その名の通り醤油屋さんです。
ここもコッテコテの黒。
腰回りがタイル貼りってのが変わってますね。
建物のテイスト的に、通常ならこの部分は下見板張りにするのが定番なのですが。
これも火事対策なんでしょうね。
板と違ってタイルは燃えないし。

二階の窓にはやっぱり木格子がビシッ。
それも骨の太い荒格子。
これは潮風対策でしょうね。
ここは海のすぐ近くなので、恐らく空気に相当の塩分を含んでいるはず。
鉄製品はもちろんですが、木も痛みやすくなります。
だからこうして骨を太くすることで、ちょっとくらい痛んでも折れないようにしてあるのでしょう。

六発目、茜屋。
ここで突然モダンな西洋風建築。
でもレトロな雰囲気もあって、不思議とこの町並みの景色に違和感なく溶け込んでいます。
今は喫茶店となっていますが、元々は何の建物だったんですかね?
銀行か、あるいは何かの庁舎だったのかなーって気がしますが。
詳細は不明です。

素敵ですわねー。
屋根の中央を割って三角屋根を組み入れ、軒下にはデンティル(歯形装飾)。
二階には上げ下げ式の縦長直線窓を、一階にはアーチ窓を配して見た目のリズムに変化を付け、その中間にストリングコース(横線の1本装飾)を入れて上下を分断。
さらに角にはクォイン(隅石装飾)を並べる。
いや、エエわ~♪
シビれるほどエエわ~♪♪

そしてトリがこちら、一本杉川嶋。
現在は日本料理店として営業しています。
一本杉通りの古建築の中で一番インパクトのある建物はどれ?と聞かれたら、間違いなくコレですな。
いわゆる看板建築。
建物の正面を平面的にデコレーションした、昭和の初め頃に流行ったスタイルです。
今やったらダサいんですけどね、でも昔のものはカッコイイ。
だってそこに時代の匂いが残っていますからね。
これもいいな~♪

お分かりですかね、一階入口上部に万年筆がデコレーションされているのが?
左右に1本ずつ、中央にインク壺。
よく見ると二階の窓の形も万年筆のペン先の形になっています。
これ、元々ここが文房具屋さんだったからです。
今じゃ万年筆なんて使ってる人ほとんどいませんが、昔はトレンドとしてもファッションとしても最先端のアイテムでした。
それをこうして店舗正面にデザインすることで、道行く人の目線をつかんだのです。

大正~昭和の世界観を今に残す一本杉通り。
人通りがなく、ショッピングをする場所としては少々物寂しいですが、散策には最高の場所です。
どうぞ1軒1軒の造りをじっくり見ながら、そこに込められた意味や楽しさを思いっ切り追いかけてみて下さい。
なお毎年ゴールデンウイークになると通りに面して花嫁のれんがずらりと飾られます。
花嫁のれんとはこの地域だけに残る風習で、輿入れの日に花嫁が嫁ぎ先でくぐるのれんです。
1年でこの時だけしか見られない期間限定の眺め。
せっかく行くならこんなタイミングに合わせて行ってみてもいいかもしれませんよ。
関連タグ >> 古民家 古建築
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