喜多家住宅 その2◆イブ・サンローランも真似したアレ
2020年12月28日
江戸時代(多分)の古民家を今に残す喜多家住宅。
元お醤油屋さんの建物だったというだけあり、民家としてはなかなかのサイズ。
ちょっと1回では紹介し切れないので、2回に渡ってご案内しています。
前回は土間から入って座敷までの半分を見てきました。
今回は残り半分です。
まずはこちら、茶室。
ちょっと暗くてアレなんですが、まー我慢してください。
この茶室、意外にセオリーをちゃんと踏んでおり、なかなかにしっかり作り込まれています。
サイズは4畳半、中央に炉を置き、奥には床の間。
そして画像には写ってないですけど、注目して欲しいのが天井で、デコボコになっています。
奥は高く、手前は低く。
これにはちゃんと意味がありまして、奥の高い方はゲストが出入りする場所、手前の低い方は家人が出入りする場所なんですね。
つまり天井の高い方をゲストに譲る事で、敬意を表現しているのです。
これは躙り口(にじりぐち)。
すっげー小っちゃい入口です。
「にじる」という言葉から分かる通り、それこそ体をにじりながら這って出入りする入口です。
ハッキリ言って太ってる人は通れません。
それくらい小さいです。
これも茶道の作法のひとつなんですね。
この躙り口を考案したのは千利休と言われており、入室前に刀を外させるためにわざと小さくしたと言われています。
と同時にまだ身分制度の厳格だった戦国期、茶室の中では身分は関係ないんだよという空気を作り出すために、わざわざ頭を下げなきゃ入れないような入口を作ったとも言われています。
多分両方の意味があったのでしょう。
で、この躙り口の向こう側をちょっと覗いてほしいのですが、こんなのがあります。
腰掛。
今風で言うとベンチですね。
これも茶室の設備のひとつで、お茶の準備ができるまでゲストが待機するための場所です。
ここで家人のお呼びが掛かるまでじーーーと待って、心を落ち着けるのです。
ここでは室内に設置されていますが、どちらかと言えば屋外の庭にある事の方が多いです。
待ち時間は庭を眺めておくつろぎください、って事ですね。
そのためにも庭はきれいに手入れされていなければならないのですが。
前回記事で書いた通り、庭の管理はちょっとアレなんですな~。
茶室の横が水屋。
ここは家人がお茶の準備をする場所です。
右手に丸い窓が見えますよね?
あの窓が先に見た腰掛の背中にあった窓です。
なのでこれだとお茶の準備している様子が、ゲストから丸見えって形にになります。
これは珍しいですね。
普通はバックヤードになってて、客には見せないんですけどね。
でその水屋の脇に階段があります。(画像ボケててすんまそん)
階段自体は全然珍しくも何ともないんですけど、見て欲しいのは側面。
引き出し付いてるでしょ?
箱階段ってヤツです。
何のために付いてる引き出しかって言うと、そりゃもちろん収納。
ここに細々としたものを片付けたのです。
金沢の古~い家に行くと大抵見かける階段です。
現代住宅が失った懐かし~い眺め。
そんなオールドな階段を登って2階に行くと最初にあるのがこの小部屋。
ここではかつて女中さんが生活していました。
画像中央にある黒い扉は屋根裏部屋に繋がっています。
多分寝室として使用していたのでしょう。
じゃないとこの部屋は階段から丸見えになってて、プライベート性ゼロですからね。
女子が寝起きするにはちょっと恥ずかしい。
その隣は床の間を備えた立派な座敷となっています。
この部屋、何気にこの屋敷の一等地なんですよね。
部屋は広いし、庭は見下ろせるし。
ただ床の間のしつらえは1階の床の間よりも若干ラフなので、格としてはやっぱり下の部屋の方が上って事になるんでしょうね。
この座敷横の縁側からの眺めがまた格別なのですわ。
同じ庭を眺めても、やっぱり水平目線と上から見下ろした目線とでは全然印象が違いますね。
高度がある方が断然気分がいい。
開口部はご覧の通りガラス張りになっています。
で、このガラスよーく見ると、画像じゃ分からんですが、表面が波打っています。
なので反射する光がうねうねうね~と微妙に屈折します。
これは昔のガラスの特長。
作られたのは恐らく大正か明治頃で、当時の技術ではまだフラットなガラス面が作れませんでした。
だからこんな風に微妙~な波ができてるんですね。
ここから庭を眺める時は、そんなガラスの質感にも注意して見てください。
その座敷の横にはまたもや茶室。
L字型をしたイレギュラーな形をしています。
なんでL字型かと言うと、その引っ込んだ部分が水屋になっているから。
構造として明らかに不自然なので、多分この茶室は後から改装してしつらえたものでしょう。
で、この茶室の床の間に飾られている掛け軸なのですが、これが面白いのですよ。
ちょっと見てみましょう。
これがまたえらく細かく書き込まれてましてね、歴史資料としてかなり価値がありそうなシロモノ。
どこでこんな詳細なデータを入手したのか知りませんが、メチャメチャ内容が具体的です。
ただ不自然な点もありまして、兼六園内に竹沢御殿があって、金沢城内には本丸があるのですよ。
わたしの記憶が間違ってなければ、竹沢御殿が建てられた頃には本丸は破棄されてなかったはず。
でも両方ともガッチリ描き込まれているんですよ、この絵では。
これひょっとしたら、作者の創作がかなり入ってるのかもしれませんね。
2階を降りて再び土間に出て奥に進むと、小さな部屋に出ます。
中に飾られているのは、かつての酒屋時代の道具類。
法被やら桶やら色々。
これはこれで興味深くていいのですが、それより見て欲しいのが右奥にあるこれ。
イヴ・サンローランのポスター。
あ?なんでここで唐突にイヴ・サンローラン?と意味不明ですが、ここで思い出して欲しいのが前回記事で最初に見た店頭ののれん。
このモデルさんが来ている衣装、なんとあののれんをヒントにデザインされたものらしいのです。
インターネットか何かでここののれんを見たデザイナーさんの頭にビビッとインスピレーションが走り、このドレスをデザインした、って事らしいです。
なるほど、そう言われて見てみると、前面の波型曲線がのれんのよ~な・・・そーでもないよ~な・・・。
ん~~~・・・。
微妙やな、こりゃ(笑)。
以上、2回に渡って見てきた喜多家住宅。
書き出すといくらでも書く事が出てきて止まらなくなるので、とりあえずこれで止めます。
後はご自身の目でこの家の「おもしろさ」を発見してください。
なおもし運が良ければ、ご当主自ら邸内を案内してもらえます。
わたしはちょうどそのタイミングに当たったので、普通は見れない奥の酒蔵とかまで見せてもらえました。
せっかくだし奥の奥まで見たい~って人は、事前に問い合わせてから行くといいかもしれません。
関連タグ >> 古民家 古建築 喜多家住宅
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