
武家屋敷跡 野村家(茶室) 茶と風流のエッセンスがぎっしり詰まった空間
2020年04月04日

長々とお届けしてきた野村家のお話。
1回目:門~玄関
2回目:控えの間・奥の間
3回目:謁見の間・上段の間
4回目:佛間・鬼川文庫
そして今回いよいよ最終回の茶室の話となります。

茶室への経路は上段の間の横、濡れ縁を渡った先にあります。
まず入口にぱっと現れるのが、お決まりの手水鉢(ちょうずばち)。
竹の筒からチョロチョロと水が注がれる、ザ・和風な石の器です。
これは茶室の必須施設。
お茶には面倒臭ぁ~いしきたりがどっさりありまして。
この手水鉢もそのひとつ。
茶室に入る前にまずはここで手を洗い、身と心を清める決まりになっています。
なので正式な茶室の入口には必ずこういった手水鉢が置かれているのです。

そこを抜けるとL字型の石段通路。
石はほぼ自然石に近いままの状態のものが並べられています。
当然ゴツゴツしてて登りにくい。
そこをえっちらほっちら登って進みます。
さすが江戸時代。
バリアフリーなんて全然考えてませんな(笑)。

その石段を登り建物に入ると、通路の左が控えの間、右が茶室になっています。
お茶に招かれたゲストは、まずは控えの間に入ってホストからのお呼びを待つ事になります。
この部屋のしつらえがまたカッコえ~のですわ♪
部屋奥は床の間。
それも定型をかなり崩したラフな仕立て。
本来中央にあるべき床柱は省略され、上の落とし掛けは2本の竹を横に渡した無造作なもの。
床は座敷と同じ高さに揃えた踏み込み床となっており、床材には大きな1枚板を使用。
なんでもこの板、紅葉の千年樹を加工したものなんだそうで。
床脇に違い棚はなく、隅っこにちんまり板棚を据えただけの素っ気ない造り。
唯一の収納である天袋の扉は、装飾ナシの真っ白な引き違い戸。

天井がまたいいんですよ。
床の間同様、ラフな造りの船底天井。
二等辺三角形の天面がばさっとかぶさります。
で、素材を見てください、何か分かります?
ちょっと茅葺みたいな植物性の何かで編まれています。
これ真菰(まこも)って言いまして、イネ科の植物です。
食用、あるいは注連縄の材料として使われるそうです。
建材として使用される例は極めてまれで、天井に使われてるのって多分ここだけじゃないですかね?
他ではなかなか見られない仕立てです。

そしていよいよ茶室。
小さな躙り口(にじりぐち)という穴から入室します。
この躙り口を通るってのもお茶の面倒臭ぁ~いしきたりのひとつでして。
元々は千利休が考案したんだったかな?
本格的なものはこれよりもっと狭く、それこそはいずってやっと通り抜けられるようなサイズ。
なんでこんな狭い穴を通らされるのかと言うと、それは刀を外させるため。
刀なんて外に置いて裸一貫になって入って来いよ、とそういう趣向になっているのです。

その躙り口のすぐ横に、花を活けて細い掛け軸が下げられているスペースがあります。
この場所、実は立派な床の間です。
織部床(おりべどこ)というものすごく簡易なもの。
そして床の間があるという事は、この正面がゲストの座る位置という事になります。
ちょっと部屋の構成を上から確認してみましょう。

大きさは四畳半。
半畳の炉畳(ろだたみ)を中心に、ぐるりと4枚の畳が敷かれています。
これらの畳、それぞれにきちんと役割と名前が決められています。
躙り口を入ったところに敷かれているのが出入りのための踏込畳(ふみこみだたみ)、その先がホストがお茶を立てる手前畳(てまえだたみ)、その横がゲストが座る客畳(きゃくだたみ)、その先がメインゲストが座る貴人畳(きにんだたみ)。
テキトーに座って、テキトーにお茶飲んで、テキトーにわいわいしゃべる・・訳ではないのです。
立ち位置、着座位置、茶の飲み方まで、いちいち細かな決め事があるのです。
それがザ・茶道の奥深い世界なのです。
あー面倒臭っ!(笑)

足元の畳を確認したら次は上、天井を見上げてください。
ここの天井が超ユニークなのですよ。
構造としては二層になっていて、下地が桐板、その上に杉板を貼ってあります。
この杉「神代杉(じんだいすぎ)」と呼ばれるもので、なんと1,000年以上もの間地中または水中に埋まっていたものだそうです。
当然探して見つかるものではなく、偶然発見されるもの。
手に入れる事自体が奇跡な、超~~貴重な超~~高級木材です。
それを1枚板にして、天井にバシバシバシーッ!!
そんな天井の下でお茶飲んだら、そりゃ美味なるわ(笑)。

以上、5回に分けて長々と見てきた野村家。
これにてやーっと終わりです。
でもね、たったひとつだけ、大事なトピックを落としてるのですよ。
それは庭。
野村家と言えば、普通真っ先に庭の話題になるんですけどね。
まあ庭については、いずれやる気が出たら稿を改めてご紹介いたします。
多分。
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