
大野からくり記念館 建築に隠された大野弁吉ワールドを追ってみる
2020年02月19日

金沢港の一角になんやらスタイリッシュな建築物があります。
大野からくり記念館です。
なんでからくりなのかと言うと、この建物、江戸時代のからくり師大野弁吉を紹介する施設だからです。
弁吉が生まれたのは1801年。
伊能忠敬が日本地図を作るために、日本中をウロチョロし始めた頃です。
元々は京都の人で、長崎→朝鮮と渡り歩いた後、再び京都に帰郷。
そこで加賀の国大野出身の女性と結婚し、その縁でここ大野町へと移って来ました。
当時豪商として名をとどろかせていた銭屋五兵衛なんかとも親交があったそうで、資金的に色々とお世話になったと言われています。
今でいう芸術家×パトロン、みたいな関係ですかね?
そんな弁吉の生涯やからくりの数々を見られるのが、ここ大野からくり記念館です。

入口受付を抜けると、いきなりからくり人形がこんにちは。
茶運び坊主ですね。
この人形現役でして、1日に何回か実演が行われ、動く様子を直に見られます。
これがよくできてましてね。
ギリギリと鈍い音を立てて動く姿は、アナログ感むんむん!
現代のテレビゲームでは体感できない、スローでレトロ~な雰囲気が楽しめます。
実演では中の仕組みも説明してもらえるので、時間に余裕のある人はぜひ見て行ってください。

その受付ホールを抜けると、本館へと向かう真っすぐな通路。
この「真っすぐ」ってのが後でひとつのポイントになります。
よく覚えといてください。
その真っすぐ通路の突き当りに次のからくり、「米林八十八(よねばやし やそはち)」人形が現れます。
この人はなんでも大野弁吉の一番弟子なんだそうで。
そのお弟子さん人形がカクカク動きながら弁吉について語ってくれるのですが、ちょっとね、どんくさいんですわ。
どうもセンサーにクセがあるようで、時々反応しません。
寝たまんま動かない時は、少し時間を置いてからもう1回前に立ってください。
いきなりぱちっと目を開けて話しだします。
まあ大した話でもないけどね(笑)。

その米林八十八の長話(←?)をひとしきり聞かされると、やっと本館内部。
いきなり大きな空間がばっと広がります。
中にはからくりに関するさまざまな展示物。
この場所がね、独特の空気なんですよ。
なんかゆる~っとしてて、幻想的で。
ちょっとした異世界。
ひとつずつ見て行きましょう。

まずは建物のカタチ。
一見円形ですが、よく見ると楕円形になっています。
これは北前船をモチーフとしているから。
要は訪問者は今、北前船に乗船したという設定になっているのです。
北前船とは江戸中期~明治中期くらいに活躍した商船で、北は北海道から南は瀬戸内海を経由して大阪まで、様々な物資を乗せて往復していました。
このからくり記念館がある大野港は、そんな北前船が寄港した港のひとつなのです。
つまり北前船を通して、弁吉の生きた時代を体感してもらってる訳ですね。

そして外壁。
ここから差し込む光が柔らかくて。
なんでかなーとよく見ると、なんと障子が張られています。
つまり和室仕様。
でもこの窓、実は元々は普通に全面透明ガラス張りを予定していたそうです。
だけどそれじゃ中の展示物に直射日光が当たる格好になり、保全上良くない。
そこでガラスの手前に障子の紙を1枚入れて、光のダメージを和らげたのです。

しかしその過程でひとつの問題が発生しました。
すでに説明した通り、この建物は全体が楕円形なのですよ。
そこにご覧の通り左右バッテン模様の柱を通してあるもんだから、窓ひとつひとつの寸法が全部微妙に違うらしいんですね。
当然そこにはめ込むガラスも障子もいちいちそのサイズに合わせて1枚ずつ微調整が必要となり。
その作業がものすごーく大変だったそうです。
カタチが正円だったらこんな事にはならなかったんですけどね。
「建築家さんのこだわり」vs「施工業者さんの悲鳴」。
建築の裏側で繰り広げられる悲喜こもごもの人間ドラマですな(笑)。

それと柱、よーく見てください。
こんなトコまでいちいち突っつくのもナンですが、柱の端っこの方にちょびっと鉄骨が覗いてます。
つまり一見木造のように見せて、実は鉄骨構造になっているんですね。
でもこの建物のモデルは北前船、木造船です。
鉄って訳にはいきません。
だから上から木を化粧することで、鉄を隠してあるのです。
こんな例、結構あります。
以前このブログで紹介した梅ノ橋なんかも鉄骨構造・化粧板張りですからね。
今復元を進めている金沢城の鼠多門前の橋もそうだし。
木のぬくもりと鉄の頑強さを融合したハイブリッド建築、探せば身の回りにたくさんあるはずですので、興味があったら見付けてみてください。

そんなからくり空間を抜けると、帰りは再び長い通路。
ここ、なんやらぐ~んにゃり導線が曲がっています。
ここで話が前のところに戻ります。
思い出してください、来た時のルートは直線でしたよね?
だけど帰り道はぐんにゃり。
上から見るとこんな感じ。

なんでこんなことになってるのか?
これ、何気にからくりのアフターワールドの表現なんです。
展示室でたくさんのからくりに囲まれて、なんやら頭がぐるぐるになって。
その摩訶不思議な余韻を引きずったまま、ぐんにゃりとした帰り道をたどる、とそういう趣向になっているのです。
例えて言えば、酒場に行く前はシャキンと真っすぐ歩けるけど、べれべれに飲んで、帰り道はへろへろの千鳥足になっちゃまう、とそんなイメージなのです。
どう?
経験あるでしょ?(笑)

大野弁吉を紹介した大野からくり記念館。
基本、小学生以下の子供さん向けなので、大人だけだとちょっと入りづらいかもしれませんが。
でも面白い所です。
どうか弁吉の作り上げたからくりの不思議と建物の異次元感を、思いっ切り楽しんでってください。
なおここから車で5分ほどのところに、弁吉の発明を支えた銭屋五兵衛の記念館もあります。
合わせて訪れればさらに理解が深まりますよ!
関連タグ >> 美術館・博物館 近代建築
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