
ひがし茶屋街休憩館 古建築から読み取る日本人の暮らしの知恵
2020年02月08日

ひがし茶屋街の一角、本通りから1本裏に入った小路に面白い建物があります。
ひがし茶屋街休憩館です。
数少ない公衆トイレがあってとっても便利・・・って別にそんな話じゃありません。(←?)
ここ、その名の通り休憩できる場所なのですが。
休憩だけで帰っちゃもったいない!
よーく見るとすごーく見どころ一杯なのです。

建物はバリバリの江戸期建築で、正確な築造年代は不明ながら、ほぼ江戸末期のものと考えられています。
なので最低でも150年前のもの。
ただその姿は何度か手を入れられており、調査したところ、4回ほど増改築を繰り返した痕跡があるそうです。
中でも最も大きくいじったのが明治期の改装で、この時平屋から二階建てへと増築しています。
その名残りがこれ。

分かります?
一階と二階とで柱がズレてます。
最初から二階建てだったのなら、わざわざこんなことする必要はありません。
今の感覚からすると、そんなのスクラップ&ビルドした方が早いんじゃない?
建物の強度的にも、こんなことして地震来たら一発崩壊でしょ?
とか思われそうですが。
ちょっとそれ違うんですね。
当時は高かったんですよ、建材が。
なので家一軒新材で建て直そうとすると、ものすごくコストがかかったんです。
だから元々あった建物を残し、その上に新たに建て重ねた方が安上がりだったんです。

規模こそ違いますが、お城なんかでもあっちを潰してその廃材をこっちに持ってきて新たに建てた、なんて話ありますよね。
彦根城なんかその典型的な例。
あそこの天守閣、よく見たらツギハギだらけですからね。
この画像は彦根城天守閣内部のものですが、注意して探すと結構こんなのが見つかります。
城も民家も、事情は同じなのです。
改めて話を休憩館に戻します。
入口を抜けてちょっと進むと、いきなりぱっと開けた感じになります。
ってのも上がこんな風になってるから。

吹き抜けですね。
この頃に建てられた町家建築には、必ずと言っていいほどこういう空間があります。
これ何のためにあるか分かりますか?

真下がこうなってまして、これが理由。
囲炉裏ですね。
ここから出る煙を上に逃がすため、いわば煙突としての機能を果たしているのです。
しかし、実は隠されたもう一つの大事な役割があります。
それは火事対策。
万が一火事になった際、家の中に1ヵ所上に抜ける空間があると、火と煙と熱はまずそこをめがけて走ります。
そのままそこでしばらく留まるため、隣の家への延焼を一呼吸遅らせることができるのです。
要は時間稼ぎですね。
そしてその間に燃えている家の周囲の建物をバンバンぶっ壊すと。(※この頃の火消し手段は放水ではなく延焼物件の破壊)

火事対策と言えばもうひとつ。
隣家との間の二階部分に、よーく見るとこんなものがあります。
これは「袖壁(そでかべ)」と呼ばれるもので、隣家から燃え移ろうとする火をシャットアウトする装置です。
え?こんな小さな仕切り1枚で?と思われるでしょう。
でも考えてください、火というのは上へ燃え上がります。
火事で燃え移る際も、火は下ではなくまず上からやって来ます。
その時、この仕切りがあったらどうでしょう?
邪魔して前、まあこの場合は横ですが、に進めなくなりますよね。
結果、そこで火が止まるのです。
この仕組み、実際に町家が火事に遭っている現場を見た人の証言によると、むちゃくちゃ効果があるそうです。
この袖壁に火がバンバン当たるけど、袖壁自体は絶対燃えな素材でてきているので、そこから先に火が進めない。
おかげで隣家まで火が回らない、と。
スゴイですな、先人の知恵!

さらに建物の奥に進むと、接客空間である座敷があり、その先に土縁と坪庭があります。
ぱっと見、あらまあちっちゃい庭ね、で終わりそうですが。
ここにもよーく観察すると、現代人とは違う、江戸時代独特の庭に対する考え方が見えてきます。
確認して欲しいのは方角。
部屋が北向きになっています。
おかげで室内、妙に暗いです。
おかしくないですか?
部屋を南に向けた方が日光が入って温かいし、部屋も明るくなるし。
なんでわざわざ北向きにするのか?

これね部屋と庭、どちらを主役にするかの問題なんです。
南向きの部屋がいいというのは現代人の価値観で、これは居心地の良さを重視しているため。
だけど江戸時代の人は庭の方が大事だったんです。
庭を南に置いて明るくし、室内からその眺めを楽しむ、とそんな意図があったのです。
必然、部屋は北向きなり、暗くなります。
でもそれで良かったのです、庭さえ明るければ。
風流ですね~♪
おかげで土縁付近は湿気がひどいらしいですけどね(笑)。

様々な先人の知恵や価値観を今に残すひがし茶屋街休憩館。
まだまだここには書き切れなかった面白い工夫や昔の習慣がいっぱい。
ひとつひとつつぶさに観察していくと飽きませんよ~。
現地には観光ボランティアガイドなんかも常駐しています。
せっかくなのでこの建物や周囲の観光情報なども聞いてみてください。
観光パンフレットには載ってない、生きた面白情報に出会えるかもしれませんよ!